「私の愛も、あなたの愛も一緒にとけて交じりあえばいいのにね」
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『マーブルルーム』 そう勝手に呼んでいるここは、協会のように大きなステンドグラスとマーブル模様の家具が特徴的で、青い蝶が羽ばたく空間。ノイズィーが創りだした、俺たちだけの秘密の空間だ。
時計はここに着た時間から一時間以上も経った数字を指している。彼女は以前、顔を伏せたまま俺の上に被さっている。ああ、でも、肩はもう震えていない。そっと、壊れないように優しく声をかけてみた。
「……ノイズィー」
「……もう大丈夫……」
ゆるりとあげた顔を見て、胸をなでおろす。
「……落ち着いたか?」
「ええ……どうにか落ち着いたわ……ええ……」
ノイズィーの婚約が決まったのだ。でも、それは俺ではない別の誰か。最高位魔術師であるノイズィー・セーヌは国のために結婚をする。顔も知らない誰かと。つまりは政略結婚というやつだ。東国など一部の地域ではまだ残っている婚姻方法。まさか自分の愛しているものが政略結婚の対象になるとは思いもしなかった。
それを知ったのは寝る直前。ふと見た号外の大きな記事に動揺し、息を切らして、この空間に着いた。予想の通り、彼女はすでにマーブルルームにいた。そして駆けつけた俺を押し倒すような形のまま、泣きじゃくった。子供のように感情に任せて声をこぼす姿は初めてで、不甲斐ないことにただ背を撫でて声を拾うことしかできなかったのだ。
「ライ……」
少しだけ泣きはらした顔が近づく。頭を撫でると目を閉じた。これは彼女が愛して欲しいという合図だ。少し引き寄せてキスをした……頭に。気づいた彼女は嬉しいようで嬉しくないって複雑そうな顔に変わる。
「ライ。違うでしょう」
「ん、本当にもう大丈夫そうだな。……ちょっとしょっぱいな」
「だから、頬も、違うでしょう」
「はいはい。お姫さま」
「はい。は一回。それにお姫さまはいらないわ」
うん。本当にもう泣き止んでいるな。
「ライ。私、こんな結婚は認めたくないわ。あんなの周りが勝手に決めたことでしょう? 私の意志はお構いなくよ? そんなの嫌よ」
「そうか。ノイズィーが選んだのかと思って焦ったから、少し安心した」
「選ぶわけない。知っているでしょう? 私はあなたを愛している。あなたも私を愛している。だからこの指輪も受け取った」
首から下げている指輪を取ってみせる。俺たちの関係は周囲に知られてはいけない。だからこうして違う形で愛を証明する。密かにこの空間で逢瀬を重ねているのだ。
「私はこのままライと一緒に居たいわ」
「その言葉、本気にしていいか?」
「本気にして。だから、お願い。私を離さないで。連れ出して」
そう言った彼女は俺の胸元に擦り寄った。細く柔い白い手をとり、唇を重ねて、約束を交わす。ほのかに暖かい体温が伝わった。
これは俺の愛した『ノイズィー・セーヌ』が『NO.00-068』になってしまう少し前の話だ。
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