わたしに与えられた世界
「ふれないで」
ノイズィー・セーヌ
悪魔を滅ぼす実験の成功者。研究番号『NO.00-068』
与えられたものでできた、自我が無いのかと疑うほど何も持たない少女。 研究者たちの人形として生きてきた彼女にあるのはただただ悪魔を滅ぼすことだけ。
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私は与えられたものでできている。
例えば体。元々死んでいただとか実験のためだけに生まれただとか様々な噂が飛び交う、この体。普通ではありえない再生力と痛覚遮断が付与されている。
例えば名前。ノイズィー・セーヌ。意味は煩わしい舞台。それも与えられたもの。いや、違うのかもしれない。元々持っていたものかもしれない。まあ、でも、今更どうでもいいことね。
もう一度言いましょう。私は与えられたものでできている。
例えば私の部屋。
どこか薄暗くて、蓄音機の静かな曲と機関車の走る音がする部屋。見せかけの窓。高い天井に映し出されたホログラムの夜空。小さなお城。たくさんのぬいぐるみ、山積みになった絵本と難しい本。大好きなお菓子に可愛らしいドレス。その他諸々。これら全ては与えられたものだ。まるで子供のご機嫌取りをしているようなこの部屋は私には不相応ではないか? そう疑問を持たなかったといえば嘘である。それでも空っぽの私にはここは中身を埋めてくれるようで居心地が良くて丁度良い。
……絵本に出てくるお姫さまだったら、ただただ与えられて、こんな部屋に閉じこもっていたら外の世界に興味を持ったり憧れるのでしょう。
もしもお姫様なら、もしも物語の主人公だったら。
希望を持って、夢を見る。私もそうだと思っていた。実際にこの目で見るまでは。
悪魔を滅ぼすために初めて外の世界を見て、呆然とした。
外の世界は誰かのために造られた世界だった。だって街並みも山も海も空気も『都合良く』何だってある。用意された私の世界と変わらない贋物の世界。
それでも二つだけ私の世界と違うことが二つあった。外の世界はたくさんの想いでできている。私の世界のように放り捨てられたような無機質ではない。どれにも優しい感情がこもっている。もう一つはこの空。綺麗で澄みきった青がどこまでも続いている。これだけは私の世界にはなかった。
この造られた外の世界をもらう人はどんな人なのだろう。きっと私とは違う、正しい意味で、世界に望まれて生まれた人。
「……世界に望まれた、なんて、どれほど重い期待がかけられているのかしら……」
そんなことを考えながら私は今日も与えられた世界に閉じこもる。
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